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政府や業界が一丸となって推進している日本のキャッシュレス決済。その普及率は2023年末時点で39.3%に達し、政府目標の2025年6月までに4割程度の実現も間近になっています。「キャッシュレス決済」と一言で言っても、その名の通り「現金以外の支払い手段」なので、様々な種類があります。
キャッシュレス決済は、単に決済手段が増えるというだけではなく、様々なメリットがあります。しかし、国がキャッシュレス決済を推進しているとは言え、現金だけでも問題がないのでは、という意見もあるでしょう。キャッシュレスがなぜ推進され、どのようなメリットがあるのかなどをご紹介します。
一口にキャッシュレス決済といっても、その内容は様々です。代表的なものは、キャッシュレス決済の中で8割を占めるクレジットカードです。Visa、Mastercard、JCB、銀聯などといった国際ブランドがあり、世界中の多くの場所で使える点が強みです。日本人が海外でも使えますし、海外からの訪日外国人も日本人と同様にクレジットカードで決済ができるため、インバウンド対応が容易という点も優位点です。
最近急増しているのがQRコード決済です。スマートフォンに表示されたQRコードをお店側で読み込むか、店頭に掲示されているQRコードをスマートフォンで読み取ることで決済を行います。店舗側は導入コストが低くてすぐに利用開始できること、若者を中心に利用者が増えていることがメリットです。入金方法として、クレジットカードを紐付けるだけではなく、銀行口座やATMから現金をチャージするプリペイド方式の使い方もできて、クレジットカードを持たない若者でも使えるという特徴もあります。
銀行口座に直結して支払いのたびに即時に口座から料金を引き落とすデビットカードは、国際ブランドに対応しているので、クレジットカードとほぼ同様の使い方ができます。即時引き落としなので、口座の貯金以上の利用はできずに管理しやすいという点と、クレジットカードよりも若い世代(おおむね15歳以上)から利用できるというメリットもあります。
通常はあらかじめ現金をチャージしておいてその残高の範囲内で支払いを行う電子マネーは、日本で広く普及した決済手段です。交通系ICカードといわれるSuicaやPASMO、ICOCAなど各地の電子マネーや、流通系ICカードのWAON、nanaco、独立の楽天Edyなどがあります。残高の範囲でしか使えないので安心感が高いこと、小学生など子供でも利用できること、特に交通系ICは電車やバスなどの公共交通機関に乗車できること、そして当初カードをタッチするだけで決済できる仕組みがほかになかったこと、早くから携帯電話での利用に対応していたことなどが普及の理由でした。
さらにクレジットカードと同じ後払いの仕組みであるiDやQUICPayも電子マネーに分類されます。こちらはクレジットカードを携帯電話で使えるように作られた仕組みです。最近ではスマートフォンにクレジットカードを直接登録できるようにもなっています。
この4種類が、経済産業省が毎年算出・公表しているキャッシュレス決済比率の内訳にある決済手段です。言葉としてはプリペイドカードもありますが、国際ブランドがあればクレジットカード扱いになるなど個別の分類が難しいせいか、区別はされていません。
楽天ポイントやdポイントなどのポイントは、決済時にコードを読み込ませることが多いので、その場合はコード決済に含まれるでしょう。このあたりは、最終的に何を使って決済するか、によって分類が変わるようです。国際ブランドならクレジットカード、QRコードならコード決済、というわけです。
キャッシュレス決済にはこうした様々な種類があり、利用方法も特徴があります。クレジットカードやデビットカードは決済端末に差し込む「IC決済」、決済端末にタッチする「非接触決済(タッチ決済)」、QRコード決済では店舗のQRコードを読み取る「店舗提示型(MPM)」と、アプリのコードを店舗が読み取る「利用者提示型(CPM)」があります。電子マネーは基本的にタッチ決済になります。
キャッシュレス決済は世界的にも、スマートフォンの登場によって大きく変化しました。
クレジットカードでは以前、物理カードを決済端末にスライド(スワイプ)させる方法が主流でしたが、偽造カードの問題が続出したことで端末にカードを差し込む方式になり、偽造問題はほぼクリアして安全性が向上。さらに最近はカードを端末にタッチするだけで決済ができる「クレジットカードのタッチ決済」が広がっていて、利便性も向上しています。
さらにApple Pay、Google Payという、スマートフォンをタッチするだけで支払いができる機能が登場し、利用が拡大しています。Walletと呼ばれるように、クレジットカード、デビットカード、電子マネーなど複数のサービスを登録して利用できます。日本ではおサイフケータイがあったので以前から携帯電話やスマートフォンでタッチ決済はできましたが、世界がこれに追いついてきた形です。
QRコード決済はスマートフォンの存在なしには語れません。スマートフォンによって中国や東南アジアを中心に海外でコード決済が一気に普及しました。日本でもPayPayの登場以降、数年でコード決済が一般化しました。
海外のQRコード決済のユーザーが、そのまま日本でも決済ができるようなサービスも登場しています。クレジットカードのように、海外のユーザーがそのまま決済できるので、インバウンド対応にも有効でしょう。最近は、自国のQRコード決済をその国以外でもそのまま使えるような国境を越えた取り組みも進んでいます。日本のコード決済が海外でも利用できるようになると、海外渡航がより便利になりそうです。
店舗側にとってもスマートフォンの登場で大きな変化がありました。コード決済への対応もそうですが、店頭にQRコードを設置するだけで決済できる手軽さで、これまでキャッシュレス決済を導入していなかった個人店でも導入されるようになりました。
さらに、スマートフォンをクレジットカード対応の決済端末のように使う「Tap to Pay」などと呼ばれるサービスも始まっています。これは店舗側のスマートフォンに利用者のクレジットカードをタッチして決済ができる、というものです。
Androidに加えて2024年にはiPhoneも対応。これによって大がかりなPOSレジを導入しなくても、スマートフォン1台でキャッシュレス決済に対応できるようになりました
日本でも西日本を中心に広がっているのが、クレジットカードの公共交通機関乗車サービスです。Suicaなどの交通系ICが日本では一般的ですが、海外でクレジットカードのタッチ決済を使って公共交通機関に乗り降りできるというサービスが普及し始めており、日本でも導入が進んでいます。
日本の場合、訪日外国人が切符を買わなくても、手持ちのタッチ決済対応のクレジットカードでそのまま乗車できるという点が一番のメリットとして広まっています。日本人にとっても海外に行って手持ちのクレジットカードをタッチして乗れます。もちろん、スマートフォンのWalletを使った乗車も可能です。
日本のキャッシュレス決済比率は2023年時点で39.3%。これは経済産業省が算出しているもので、政府が立てた目標は、2025年6月までにこの比率を4割程度まで押し上げるというものなので、達成は間近です。
このキャッシュレス決済比率は、2010年にはまだ13.2%だったのですが、コード決済登場以降、順調に拡大しています。ただ、諸外国では6~9割といった国々も多く、日本ではキャッシュレス決済が遅れ気味でした。こうした背景には色々な理由があります。
日本は銀行口座の保有率が98%近くあります。個人間送金や振込などが口座間取引で行われることが多くあります。海外の国によってはこうした銀行口座の普及率が低く、その代替として決済機能を持つスマホアプリが広がり、キャッシュレス決済の普及が進んだという側面もあります。
加えて利用者も店舗も現金主義が根強く、利用者側はなんとなく使い過ぎてしまうなど不安があったこと、店舗側にはキャッシュレス決済導入のコストや決済手数料を嫌う傾向があったことなど、様々な理由で日本のキャッシュレス決済普及が遅れていました。
キャッシュレス決済比率が4割に近づいたとは言え、逆に言えばまだ6割は現金で決済されていることになります。こうした状況で、店舗側はキャッシュレス決済に対応すべきなのでしょうか。そのためには、メリットとデメリットを適切に分析する必要があります。
キャッシュレス決済対応にはいくつかのメリットがあります。
まず、現金を持っていない来店客にも対応できるようになり、特にインバウンドに対応できるのは強みです。クレジットカード、海外QRコード決済に対応すれば、世界中の訪日外国人の決済も受け付けられます。日本人でも現金を持ち歩かない人も増えているので、そうした人も対応できます。
もう1つのメリットが現金を扱わないという点です。現金は、金額が正しいかを数えてキャッシャーの正しいトレイに入れて、必要ならばお釣りを手渡す作業に加え、1日の終わりには現金の数を数えるという作業が必要になります。このレジ締め作業が相当の負担になっている店舗も多くあります。売上を計算し、レジの記録と現金が一致しているか数え直し、誤差があれば対処して……を繰り返していきます。
キャッシュレス決済であれば、こうした問題は発生しません。データとしてそのまま売上が記録されているので、必要ならばそれをチェックするだけです。もちろん、仮に売上の「6割」が現金だとしたら、その分はレジ締め作業が必要です。この割合が減れば減るほど(キャッシュレス決済の比率が上がるほど)、レジ締め作業の手間は減っていきます。
レジ締め後は、現金をどこに保存するかの問題もあります。金庫に入れて保管したり、レジにそのまま置いたり、ATMや夜間金庫に持っていったりして、ATMで振り込むコストも発生します。店舗に置きっぱなしだと空き巣に入られる心配もあり、現金の割合が減るほどに問題は減っていきます。
現金を扱う場合、釣り銭用に小銭を用意しなければならないのですが、昨今は銀行での両替にもコストがかかる場合があります。また、わざわざ銀行に赴く必要があり、営業中に釣り銭切れで銀行に駆け込むことも。お釣りが発生しないキャッシュレス決済では、こうした手間が削減できます。
2024年には、日本で20年ぶりの新札が発行されました。券売機や自動釣り銭機を導入している店舗では改修が必要な場合もあり、その場合はコストがかかります。
細かいお釣りが発生するような店では、お釣りを手渡すまでの時間がかかって、レジ混雑に繋がる恐れもあります。
現金は誰でも使えて、1回の決済ごとに手数料も掛からないため、見かけ上はコストが最小限になります。それでもキャッシュレス決済を導入することで、業務の効率化に繋がり、売上増やレジ混雑の解消、売上の管理・分析がしやすいなどのメリットがあります。
キャッシュレス決済の導入は単に支払い手段が増えるというだけではありません。店舗における課題を洗い出し、その解決にキャッシュレス決済が貢献できるのか、そのような観点から検討すると、より良い店舗運営にキャッシュレス決済が繋がっていくかと思います。
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